『加工』と『無加工』

フィルムからデジタルの時代となり、写真編集の技術が進歩してからよく耳にする『加工』という言葉。

私はこの『加工』という言い方が嫌いなのですが、使っている方は『レタッチ』『編集』などと同義と捉えているのでしょう。撮影してきた写真を調整し、より良い仕上がりへ、もしくは自分の表現へと変換する作業になります。

そしてこれまたよく耳にする『無加工』という言葉。インスタグラム等でも「写真は無加工です!」と宣言している方を時々見かけます。

そういった宣言をしている人間は、ほぼレタッチスキルが無い(もしくは学ぶ努力から逃げて自己弁護している)のですが、そもそもどういった意味で『無加工』という言葉を使っているのか。

『カメラ(スマホ)等で撮影し、一切手を加えていない状態』

を『無加工』としているならば、実は恥ずかしい発言だったりするのです。

フィルムカメラになるとまた別の話になるので、今回はデジタル撮影。スマホやデジタル一眼での撮影の話になります。

そもそも、デジタルでJPEG撮影した写真に厳密な意味での『無加工』は存在しません。

デジタルカメラはイメージセンサーに照射した光の粒子をデジタルデータに変換し、人間が写真として見るに適した画像にしています。

この光データをそのまま記録するのがRAW撮影(rawファイル)。肉眼では確認できないレベルの光まで記録しておくことで、現像時により幅広い調整が可能になります。
(肉眼で全く確認できない赤外線などは基本的にカットされています)

それに対し、「無加工です」と言っている方の99%はJPEG撮影(jpgファイル)。

これは言うなれば『既定のプリセットで機材内RAW現像』しているようなもの。もちろんコンデジやRAW撮影ができないスマホなども同じです。

つまり『無加工』と呼ぶ写真は、すでにカメラ内で『加工』されており、本当の意味で『目の前の景色そのまま』ではなく、手を加えていないわけでもないのです。

カメラのメーカーによる特性…というものを聞いたことはありませんか?

Nikonは黒が深い、オリンパスは青が良い、そういったものです。

スマホのカメラでも、被写体を自動で認識してくれる機能がついていませんか?

料理であればより美味しそうに、風景であればより印象的に、そういった調整で『加工』されて出てきた写真が『無加工』と呼んでいる写真です。

それでもなお「無加工です」という無意味な主張をしたいのであれば、RAW撮影ができる機材を使いましょう。

そして一切何も手をつけず、そのままJPEGに現像して下さい。デジタルであればそれが最も『無加工に近い状態』と言えます。

ただし撮影の時点でしっかりと光をコントロールできなければ、とても味気ない写真になります。

こういった理由から、ある程度以上の写真撮りであれば『無加工』などという言葉は使いません。そういった意味で使うのは『撮って出し』になります。

RAW撮影せず、基本プリセットでJPEG撮影しそのままの状態、それが撮って出し。

なんとも変な感じの言葉ですけど。

ただし言葉というものは時代と共に変わっていくもの。

もし将来的に『撮って出し』という言葉が『無加工』に置き換わるならば、それは受け入れるべきだと思いますし、私もそう表現するでしょう。

その日が来ることを信じ、今から「無加工」という言葉を使い続けるも良し。知識を身に付けながら自分をアップデートしていくも良し。

価値観や信念は人それぞれ。自分が必要と思わなければ変える必要はありませんし、他人に変えられる筋合いもありません。

ただ、全く知識もないまま「加工」という言葉を使っているのならば、一度しっかり学んでから考えてみては・・・という話です。