『芸術支援企業』と『オファー』

名前と連絡先が出る形で個展を開催したり、当サイトのように個人ポートフォリオを公開するなど、写真活動を継続していると必ずやってくるのが…

お忙しい中、本メールに目を通して頂き大変感謝申し上げます。
私共は『〇〇〇〇』と申しまして、様々な芸術活動に関する事業を展開しております。
この度はあなたの作品を拝見し、大変興味を持った次第です。
ぜひ〇〇〇で開催される展覧会にご出展いただき、
より多くの人々にあなたの芸術作品を~なんちゃかんちゃら~

といった内容のメール。

心の美しい方、もしくは世間知らずな方ならば「やった!ついに私の作品が世間に認められた!」と小躍りして喜んでしまうかもしれませんが、これはいわゆる『芸術支援企業』と呼ばれる会社からのオファー。タネを明かせば『高額な出展料を支払う見返りに、多くの人々の目につく場所に展示してもらう』というものです。

写真だけに限らず絵画、陶芸、書道などなど…なにかしらの芸術活動を一定レベル以上で展開していれば、様々な会社からポンポンと送られてきます。私もこれまでに何通も頂いています。

彼らは一人一人の作品を吟味・厳選し、本当に素晴らしいと思った作家にオファーを送ってきている・・・・というわけではなく、ある程度ガチで芸術活動をしていると思った人間にはほぼ無差別に送信してきます。なにせ営業ノルマがあるらしいですから。

要するに『出展料で儲けたい』と思っている企業が、『より多くの人間に見て欲しい』と思っている作家の心をくすぐることで成立しているビジネスです。NPOのように純粋に芸術活動を支援することだけが目的ではありません。

中には話を膨らませるだけ膨らませてから、最後になって『〇〇万円の負担が必要です』と金額を提示してくる会社もあります。

まるであの手この手でこちらの気持ちを本気モードにさせておいてから『実はわたし借金があるの…』と切り出してくるキャバ嬢のようですな。いえ、私はそんな経験はありませんよ、あくまで想像、イメージです。

これだけ聞くとまるで詐欺のように感じかもしれまんが、実はそうとは言い切れない部分もあるのです。

今回はこういったオファーを受けた方、もしくはそういう話に興味のある方向けのコラムになります。

当たり前のことですが、通常の芸術支援企業は本当に約束通りの場所で展示会を開催してくれます。
(一部の金だけ集める詐欺企業は除く)

日本国内であれば横浜の赤レンガ倉庫や東京美術館、外国であればロンドンやパリのイベントホールなど、無名の芸術家にとっては夢のような場所に嘘偽りなく展示され、多くの人々に作品を見てもらうことができます。場合によっては自分の作品に対する来場者の感想なども入手できます。

そう。
捉え方によっては本当にチャンスなのです。

大事なのは『互いにビジネスである』という意識を忘れず、相手企業を見極め、出資金額に対して自分が得られるものが見合っているかを考慮し、プラスになるかどうかの決断を自らの判断で下すこと。

やけにこちらを持ち上げるような言葉を並べてきたりもしますが、彼らの目的はあくまで出展料を徴収し利益を出すことであり、作品への賛辞はそのための社交辞令。決してあなたの作品のファンでもなければ支援してくれるボランティアでもありません。もちろん社会人としての礼儀は必要ですが、へりくだる必要は全くありませんし、過剰に感謝する必要もありません。

あくまでビジネスの関係…と割り切れなければ、単なる金づるとして利用されるだけです。

ちなみに気になる出展料はというと・・・・
開催地や規模によって大きく異なるものの、10万円以下というのは聞いたことがありません。場合によっては20万を超えるケースも多々あります。

この金額と、自分の経済状況、得られるメリットを天秤にかけ、『利がある』と判断したならば迷わずGO。高すぎると感じるのならば迷わずスルーです。

言い換えれば、彼らの提示する金額は私たちにとって『宣伝料』という事になります。

その料金に見合った見返りがあるかどうか大事。この『見返り』というのは将来的に見込める収入かもしれませんし、名声かもしれません。それは人によって異なります。

写真界隈に限った話ではありませんが、『金とプライドはあるが技術も向上心も無い』という人間は数多くおり、金さえ出せば簡単に手に入るような会員資格を自慢げにひけらかしている方はよく目にします(○○王立写真協会の会員権など)。

この手の会員資格は見る人が見れば簡単にバレるのですが、一般の方からすれば立派な肩書に聞こえます。彼らも、何も知らない素人に得意げになれれば満足なのでしょう。

そういった類の人間にとっては芸術支援企業は美味しい話であり、あちらにとっても美味しいカモ。Win-Winの関係で互いに満足できる結果が生み出せます。だからこそこういったビジネスは無くならないのでしょう。

しかし芸術活動に本気で取り組み、命を削って創作をしている方であれば、しっかり落ち着いて考えたほうが宜しいかと思います。

決してそういった企業を否定してるわけではありません。ただ、浮足立って飛びつくのは危険だ、という話です。

つい先日、私もイギリスでの展覧会オファーを頂きました。出展料はパネル製作費別で18万円。おそらくなんだかんだで総額は20万を超えるでしょう。

私が月収200万を越えるような高所得者であれば遊び半分で参加するところですが、そもそもそこまで収入があるなら頻繁に個展を開催したほうがよほどマシです。

苦しみながら細かくコツコツと稼ぎ、地道に研鑽して登っていくのが楽しい性分なので、おそらく私は一生お世話になることはないでしょうが・・・世の中にはいろいろなビジネスが存在するのだな…という話です。