『現像』と『プリント』

カメラ関係の業務、ならびに写真関連のSNS等を使用していると感じるのですが、『現像』『プリント』を混同したり意味をはき違えている方が世の中には多く存在します。

『現像』とはフィルムカメラであれば撮影したフィルム(筒の中にグルグル巻きになって入っているもの)を薬品処理して可視化(ネガと呼ばれる状態に)することであり、デジタルカメラであればRAW撮影してきたデータをJPEGやTIFFなどの一般的な画像フォーマットに変換すること。

対して『プリント』とは写真画像を写真紙に印刷することです。アルバムなどに収録するのはL版、その他大きな用紙に印刷することもプリントです。

全く別の作業なのですが、この『現像』を『プリント』の意味で使用する方が多く、時々話が食い違ったりするのです。

デジタルカメラが普及する以前、写真はフィルムで撮影することが一般的でした。

一部のプロや愛好家は自室に暗室を備え、現像からプリントまでの工程を自ら行っていましたが、多くの方は撮影したフィルムを写真店に持ち込み、現像・プリントしてもらう流れで写真を手にしていました。

この時代を経験した方ならば、10円/枚などと表示された看板に『写真現像』と並んで『同時プリント』と書かれているのを見た覚えはありませんか?

これは現像処理と同時にプリントして写真にしますよ(写真用紙に印刷しますよ)・・・という意味です。現像だけ頼んでネガのみ持ち帰っても意味がないので、プリントまで頼むのが普通ですから。

しかしフィルムを写真店に頼む際に「現像に出す」という言葉を使う方が多く、『現像に出す』=『プリントしてもらう』→『現像』=『プリント』という変な言葉の解釈になってしまったようです。

私も撮影の仕事を終わらせた際に「じゃあ半日くらいで現像作業が終わると思うので、明日の夕方あたりに提出しますー」などと言ってしまい、「え?現像してくれるんですか?」とか「いやいや、現像しなくていいよ。データだけ頂戴」などと言われた経験があります。

現在はフィルムカメラはほぼ趣味の域となり、デジタルカメラが撮影の主流となっています。

しかしいまだに『現像』を『プリント』の事だと思っている方が多く、「今日撮った写真、帰りに現像していこう(=プリントしていこう)」といった使い方をしています。

もちろん一般の方であればそういった用語を詳しく知る機会もありませんし、致し方ないところでしょう。『破天荒』や『役不足』など、熟語でも誤用が本来の意味より浸透することで、言葉の意味そのものが変わることもあります。

しかしInstagramやポートフォリオ系サイトを利用している人間で『現像』と『プリント』をまるでわかっていないというのは・・・ちょっとどうかと。

趣味のスマホ撮りで日常写真を投稿しているような方は問題ないでしょうが、それなりのデジタルカメラを所有し、作品として写真を並べておきながらそこを理解していないというのは恥ずかしいものです。

写真は感性が大事。知識や用語だけを頭に詰め込んでも、行動とセンスが無ければ良い作品は生み出せません。しかし最低限の用語くらいは学んでおいたほうが良いでしょう。

・・・と、現在の仕事に就くまで『現像』と『プリント』を完全にはき違えて使っていた者として、切に感じるのです。